■「東大阪の公民教科書を読む会」声明文■
「東大阪市の中学校社会科教科書採択について」
――市民の皆さんに訴えます
東大阪市にふさわしくない教科書を選ばせないために
「東大阪の公民教科書を読む会」共同主催者
鈴木良(故人)(日本近現代史研究者、元立命館大教授)
丁章(詩人、「喫茶美術館」館長)
2011年7月26日、東大阪市教育委員会は、中学校公民教科書として育鵬社版『新しいみんなの公民』を採択しました。このことに私たちは大きな危惧を抱いています。
育鵬社のこの公民教科書は多くの批判があるように、重大な欠点を持っています。戦争の放棄を定めている日本国憲法を、「国際政治の現実」と合わないという理由で軽視し、防衛力の強化を説いています。憲法は戦後日本のあり方を示した強い理想であって、日本が多くの国ぐにから信頼される根拠となってきました。私たちはこの不戦の原則を守ることが日本の責務と考え、ここに日本の希望を託してきました。 しかし現政府は、この理想を現実に生かして、他国との話し合いによる問題解決の道を選びませんでした。最近では集団的自衛権を容認し、他国と軍事的に協力して海外に派兵する道を選びました。これは事実上の「憲法改正」に当たります。この教科書は、このような主張を公然と正当化しています。日本国憲法の原則を否定することに協力しているといわなければなりません。
また、日本には膨大な数の韓国・朝鮮人をはじめ外国人が居住しています。これらの人びとは日本に住みながら平等な権利を保障されず、さまざまの差別を受けています。その根っこには明治以来の日本の植民地政策があり、その結果として、多くの外国人が日本に定住しているのです。この教科書はこのことに眼を向けさせようとはしていません。 しかし、地域に住む住民の間では友好・協力の関係が行われています。これまで東大阪市では多民族・多文化との共生の心をはぐくみ、日本人も外国人も同じ人間、同じ住民として、誰もが幸福に生活できる街づくりをめざす教育がさかんに実践されてきました。私たちも東大阪市の住民として、そのことを誇りに思ってきました。育鵬社の公民教科書は、そのような東大阪市の実践からは程遠い、人権軽視、国益優先、排外同化主義の思想に満ちた教科書です。これを許すわけにはいきません。
そこで私たちは、育鵬社教科書を東大阪市民をはじめ多くの人々と共に考えるために、2012年に「東大阪の公民教科書を読む会」を開催することにしました。回を重ね現在10回を越えています。毎回多くの参加者と共に、育鵬社版公民教科書やその他各社の教科書を読みながら、育鵬社・自由社の教科書(歴史・公民とも)の内容が、いかに東大阪市の教育にふさわしくないものであるかということの認識を深めております。 来年2015年の次回中学校教科書の採択をひかえ、私たちは、育鵬社ならびに自由社の教科書が東大阪市の教育にふさわしくない教科書であると考え、これらの教科書が教育現場の大多数の意見を無視した強権的な方法で採択されることを危惧しております。そこで私たちは次のように考えます。
1、教科書は問題の根本を生徒に考えさせ、将来の良識ある市民を育成することに奉仕するものです。日本国憲法に示された理想を深く考えさせることが重要と考えます。現政府を代弁するかのような、軍備増強を正当化する記述は百害あって一利のないものだと考えます。
2、育鵬社・自由社の教科書は、他の教科書に比べて、国益を優先し、定住外国人の人権を軽視し、つまるところ排外的な同化主義を正当化する内容となっていると考えます。
3、前回の教科書採択では、育鵬社・自由社の教科書は採択にふさわしくないという教育の現場からの意見が事実上無視されました。これは教育の自由を軽視した採択方法だと考えます。
私たちは長い討論の末、このようなアピールを出して、多くの人びとに呼びかけたいと考えました。多くの皆さんのご意見とご賛同をお寄せ下さいますようお願い申し上げます。
2014年11月12日
「東大阪の公民教科書を読む会」共同主催者 鈴木 良(日本近現代史研究者、元・立命館大教授) 丁 章 (詩人、「喫茶美術館」館長)
賛同署名は waneibunkasha@yahoo.co.jp にて承ります。 |